「こっこふぁくとりー」で養鶏場にイノベーションを
――福岡の平飼い卵農場と大学生チームが挑むDXのかたち

おむ(写真左から)森田 裕海、 法谷 美憂、黒木 彩音
         (九州工業大学情報工学部 知能情報工学科3年)
※欠席:千北 彩瑚(九州工業大学情報工学部 知能情報工学科3年)
    中島 佑美 (佐賀大学芸術地域デザイン学科3年)   

(写真一番右)タケノファーム株式会社 あかね農場 農場長 山﨑 登希代 

「福岡の平飼い養鶏場 あかね農場」と、九州工業大学の学生チーム「おむ」は、養鶏場の運営が農場主の経験と勘に大きく依存しているという課題を共有し、農場のDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。令和6年春に連携をスタートして以来、アプリの試作やテスト運用、フィードバックを重ね、農場の深層にあるニーズや課題に向き合ってきた。両者が共同開発した養鶏管理の業務支援システム「こっこふぁくとりー」は、e-ZUKAスマートアプリコンテスト2025で4つの企業賞を受賞。今回は、学生チーム「おむ」の3人と、あかね農場の山﨑農場長に、協業の裏側を聞いた。(以下、敬称略)

山﨑:当時おむの学生たちが参加していた地域創生のプロジェクトの運営に携わっていた方が、偶然にも私の養鶏の師匠であったことがきっかけです。私はその師匠から「地域創生のプロジェクトに参加している飯塚の女子大生たちとご飯に行くが、自分一人だと気まずいので同行してほしい」と声をかけられ、緩衝材として伺った場で出会いました。そこで「実はアプリ開発をしている」という彼女たちの挑戦を初めて知り、そこから関係が始まりました。2年にわたる協業のスタートになったんです。

山﨑: 私から「こういうものができないか」と相談しながら、年に3~4回の打ち合わせで進めていました。ただ、学生としても「なんのためにアプリ開発を行っているか」、私としても「なんのためにこれを作りたいか」を共有がちゃんとできていなかったんです。今思えばもっとコミュニケーションをとるべきだったと反省しています。

おむ: 私たちもアプリ制作の経験がなく、自分たちに何ができるのか分からない状態でした。山﨑さんからオーダーがきて、自分たちでできることなのかも判断ができない。まずは試作に挑戦してから山﨑さんに連絡していたような状態です。一度、レスポンスが遅すぎて山﨑さんに「ちゃんと返事しようね」って言われてしまったこともあります(笑)。

山﨑:私も悪かったです。「マーケティング機能つけて」だけで、誰も分からないですよね。反省です。

だけど、最初にアプリ見たときは「すごくきれいにできているな」という印象でした。見た目のデザインや構成はとても良くて、学生さんたちの発想力やセンスを感じました。ただ、実際に使う現場目線で考えたときに「これで何が解決できるのか」という実務的なメリットがまだ足りないと感じました。農業のシステム導入って、実は簡単ではなくて、費用や運用面でもかなりのハードルがあります。だからこそ、「見た目の良さ」以上に、「投資するだけの価値があるかどうか」という視点が必要だと思いました。でも、その感想を正直にフィードバックしたことで、学生さんたちがまた一段と現実的な目線を取り入れてくれるようになりました。

そこから改良を重ねるたびに、「なるほど、こうすれば現場でも使える」と思える機能が増えていったんです。その成長のスピードには、私も驚かされました。

山﨑:一番の戸惑いは、まず農業の現場をどうやって伝えるかという点でした。私たちが日々どんな環境で、どんな労働をしているのかという現実を、言葉だけで理解してもらうのは難しいと感じました。そこで、1年が経った頃に思い切って学生たちを農場に招待しました。実際に現場に来てもらい、スタッフの働く姿や鶏たちの様子を見てもらい、現場の空気を感じてもらって初めて、なぜこの作業が必要なのか、どんな課題があるのかを体感できると思ったんです。そのうえで、「現場の不便さ」と「学生の持つ新しい視点」を掛け合わせることができたのは、本当に良かった点ですね。養鶏という分野にこれだけ深く関わってくれた学生さんたちは、なかなかいないと思いますし、鶏にも実際に触れてもらえたのは嬉しかったです。

おむ: 現場に行って、実際に話を聞けたのがターニングポイントだったと思います。山﨑さんのオーダーは、単なる機能だけでなく、意図や思いが込められていることに気づいたんです。私たちはアプリ開発が目的だと思っていましたが、山﨑さんにとっては「働きやすい職場づくり」や「業界に変革を起こす新しい仕組みづくり」が目的で、アプリはその手段だったんです。だからこそ、現場に行って、現場の声を聞いて、現場のリアルを体験することで、より山﨑さんの意図や思いを知りたいと思うようになり、おのずとコミュニケーションの質と量が上がったんだと思います。

おむ: 卵の数え方を効率化しようと、30個入りのトレーの数を数える機能を提案したんです。今まで卵を集めながら数えていたと聞いたので大変だろうなと、トレーごとに計算した方が便利だろうなと思って。。。でも、山﨑さんに「今まで通り個数のみ数える方法が良い」と言われてしまいました。

山﨑: 大規模農場なら有効な機能だと思います。でも、うちは平飼いで、卵の数もそこまで多くないので効率は大きく変わりません。多少の効率化よりも、1つひとつの卵を大切に手で集めたいという思いがあるんです。流れ作業のような仕事はデジタル化してもいいけど、大切にしたい価値観もある。それを伝えたかったんです。

おむ: こうしたすれ違いは何度もありました。だから、学生だけで定期的(多い時で週に1回)にミーティングを開いて、目的のすり合わせをするようにしました。曖昧な点は山﨑さんに確認して、意図を共有するようにしています。意図が分かれば、私たちからも機能を提案することもできます。一緒に事業を進める方と密に連絡を取っていくことが大切だと思いました。

山﨑: 彼女たちが作ってくれたアプリは、経験や勘を数値化して可視化するものです。天気や気温と卵の産卵数の関係、卸先ごとの出荷量なども分析できるようになりました。何より情報を見える化し、従業員みんなで共有できるようになったのが大きいです。

例えば、卸先が見える化されたことで、ある従業員が子どもを連れて、うちの卵が売られているお店に行ったとき、「これはお父さんが育てた卵だよ」と言えるようになったんです。収入や出荷数も見える化されて、働くモチベーションにもつながっています。

おむ: 2年間取り組んできましたが、まだまだ実用化には課題が残っています。私たちは3年生で、来年には卒業や就職活動も控えているので、どこまでできるか不安もあります。1人は大学院進学を目指しているので、継続できる可能性があります。後輩や他の学生を巻き込んで、プロジェクトを引き継いでいけたらと思っています。

山﨑:農業の参入ハードルを下げたい。性別や年齢、ライフスタイルに関係なく、農業に関われる人を増やしたいと願っています。生産現場ってどの業種でも共通して、情報が現場に埋もれているんですよね。それを見える化して、共通できるようになれば、経営の質も大きく変わります。このシステムが、他の農家さんや地域の生産者たちが「うちでも使ってみたい」と思えるようなプラットフォームになればいいなと思っています。農業がもっとデータと繋がって、チームで動ける時代を作りたいですね。このシステムを通じて、効率化や見える化が進めば、若い人や女性にも働きやすい環境をつくることができる。そして、「やりがいと暮らしやすさの両立」ができれば、農業を続ける人が増えていくと思っています。

このチームには、相互の敬意と信頼がありました。インタビュー中はずっと笑顔が印象的でした。最初はすれ違いもありましたが、お互いが対話を重ねることで、目的を共有し、寄り添いながら、より良い未来を目指す関係性が築かれていきました。お話を聞く中で「お互いにリスペクトがある関係」という言葉が印象的であり、だからこそ今回のアプリは生まれたのだと感じました。今後の「こっこふぁくとりー」の進化と、彼女らの挑戦に注目です!